チェーンロックの落とし穴
最近俺は、隣のクラスの青山さんとちょっといい感じだ。自転車置き場で、自転車の鍵を紛失して困っていた彼女に声をかけ、鍵を一緒に探してあげたことがきっかけだ。そしてこんな展開を高校入学以来、俺はずっと期待していた。
登校時間は、朝が弱い俺のせいで一定せず、青山さんとあまり会えないことの方が多い。でも下校の時は、部活のない水金が、彼女と会えるチャンスだ。6時間目が終わったら、終礼が終わるのが待ち遠しい。終わったらすぐに教室から飛び出すのだ。そうしないといつもの男友達から、帰りにゲーセンに寄ろうだのカラオケに行こうだの、誘われてしまう。そんなやりとりをしているうちに、彼女が帰ってしまうかもしれないので急ぐのだ。
校舎の裏手にある自転車置き場に一番乗りで行く。自分の自転車にまたがり、スマートフォンを見ているフリをする。スマフォをいじっているフリをして青山さんの自転車がどこにあるのか探すのだ。周囲の自転車を見回すと、皆どれも似たような自転車ばかり。自転車用の簡易な鍵がついたものもあれば、頑丈そうなワイヤーロックやチェーンロックで柵にくくりつけている自転車もある。彼女の自転車は、あった。斜め前に置かれていた。灯台下暗しとはこのことだ。すぐ斜め前だった。今朝俺が来たときはなかったから、もしかしたら青山さんは俺の自転車の側だとわかって置いたのかもしれない。
そう思った瞬間に彼女がやってきた。ここ最近そうしているように、お互い軽く挨拶を交わす。彼女は先日鍵を紛失して以来、鍵を番号式のチェーンロックタイプに替えた。彼女は素早くロックを外すと、スタンドをあげて自転車を動かし始めた。慌てているのを悟られないように俺も慌ててチェーンロックを外そうとした。ところが、ナンバーのダイヤルが硬く、なかなか番号が合わない。これが安物のチェーンロックの落とし穴だ。モタモタしているうちに、彼女は帰ってしまった。